4月も半ばを過ぎ、新生活の慌ただしい雰囲気も少し薄れてきましたね。
今年は学校や会社の入学式・入社式が対面で行われたところも多かったようで、世間は少しずつコロナ禍との付き合い方に慣れてきつつある印象です。
そんな中でも、高齢者が生活する施設などは、いまだに外部との接触には厳しいところが多いのが現実。
先日、施設入居しているお母様と、実家に住む娘さんとの信託契約公正証書の作成のために、とある有料老人ホームへ公証人に出張してもらった時のことです。
その施設では、外部の人が入居者と「同じ部屋に入ってはいけない」という体制がとられていました。それも居室ではなく、広ーい会議室であっても、です。
別室面談という状況下で有効な公正証書を作るには?
ご存知の通り公正証書は、公証人が依頼者の面前で作成することにより本人の意思確認をするのですが、そのような規制があっては、不可能になってしまいます。
「別室でリモートで繋ぐ」という案も出されましたが、別室になってしまうと、本人の発言する内容が本当に自分の意思だけで受け答えしているのか確証が取れないことと、手元がすべて見えない状況であれば第三者がなりすましで署名する可能性があるため、認められないのです。
そこで決まったのが「窓の外からガラス越しに話す」という方法。もちろん入居者であるお母様が部屋の中で、公証人と受託者である娘さんと私が外です。
本人の自発的で明瞭な返答が出なければ…
その日は春一番かというような強風の日。
幸いにして気温は高く、うららかな春の陽気ではありましたが、砂まじりの強い風で手元の証書が吹き飛んでしまいそうな状況、そして窓の高さに合わせるために中腰で話さなければならないという、地味に過酷な環境を強いられることになりました。
ガラス窓に間を閉ざされた両者の会話がスムーズに行われるはずもなく、こちら側が大声で話しかけても、ただでさえ耳の遠くなったお母様には聞き取るのが困難で、質問に対する答えがなかなか出てきません。
そんな膠着状態がしばらく続き、公証人がポツリと「こりゃダメかな」と漏らしたのを聞いたとき、私は何故か背後の庭に見事に咲き誇る桜に見惚れ、しばし脳内トリップ。
何だか分かりませんが、あのときの桜の美しさは一生忘れない気がしました。
一筋の光明
その時、見兼ねた(?)付き添いの若い男性職員が、お母様に向かって公証人の言葉を伝言してくれ始めました。
お母様は、霧が晴れたような表情をされて、はっきりとした言葉でお答えになり、その勢いに乗った公証人の渾身の再質問に対しても明確にお返事をしてくれたのです。
おかげでどうにか無事に公正証書が完成し、信託契約締結と相成りました。
あの若い男性職員さん、本当にグッジョブ!です。
何がいちばん大切なことかを
とはいえ、本人や家族の人生に大きく関わる書面である、公正証書。
ただでさえ厳格な作成要件であるものですが、それを作成する環境があまりに厳しい状況になっては、できるものもできないことが多々発生するでしょう。
目に見えないもの、正体の分からないものに対して、どのように・どのくらい防御するかは、それぞれの判断に委ねられます。
それはまさに、将来の不安と同じこと。
闇雲に怖がるのではなく、冷静に適切な対策を執ることができるように、正しい情報を得て、自分の頭で考えて実践することが大切だと改めて実感した出来事でした。